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創作あれこれのお話をぽちぽちおいていく予定です。カテゴリがタイトル別になっています。記事の並びは1話→最新話。
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 ドリィの目が見開いて、肩に下げた鞄が輝いた。しかしよく見れば輝いているのは鞄ではなく、鞄の口から眩いほどの光が零れていた。
「……確かに聞き届けたわ、あなたの思い」
 ドリィが薄く笑った。細めた瞳の奥で、キラキラと光が揺れていた。今度はビリィの目が見開く番だった。
 ドリィは鞄を開け、朝に見た剣の柄を取り出した。先ほどから輝いているのはそれだったのだ。柄の紋様は、やはりアビスの尻尾にあった模様ととてもよく似ているように見えた。その柄をビリィに差し出して、ドリィは言った。

「あなたを、勇者にしてあげる」

 ズシン、ズシン。アビスの足音が耳にこだまする。
 ビリィは信じられないような顔をしてドリィを見る。ドリィは黙ったままその微笑みを深くした。ビリィの瞳が輝き、口をきゅっと結ぶ。決心したようにその手を伸ばした。柄を握る。世界が揺れる。
 
 眩い光の中で、ドリィが一筋涙を零した気がした。
 
「――あなたに、世界を委ねる力を」
 
 
 そう、ドリィが告げたとき、柄だけだったはずの剣に、刃ができていた。
 
「……っ、……!」
 
 ビリィは目を見開く。輝くその刃は白く閃いていた。しかしその剣は、ビリィが今まで持っていたもののようにピッタリと手に収まった。そして不思議なことに、その剣を持った瞬間あれほど自分を苦しめていた痛みも、感じていた揺れも消えてしまっていた。
「これは……」
「あなたの望んだ、世界を守る力よ、ビリィ」
 呆然と佇むビリィに、ドリィは笑いかけた。
「世界を、守る力……」
 ビリィは柄をぎゅっと握りしめる。先ほどまでの眩い光は消えていたが、しかしズシリと手に響く重さが確かに強さを与えてくれるようだった。
 
「ビリィ、アビスを追って!このままじゃ、すぐにでも街に到達してしまうわ」
「!!」
 
 ドリィの言葉にビリィは顔を上げた。振り向けば、アビスはすでに街のすぐ側まで到達していた。暗闇の中で輝く街の灯りさえ、その影が飲み込んでいる。あと数分もしないうちにその足は街の大半の建物を踏み潰してしまうだろう。
「くそ……っ!」
 ビリィは走る。先ほどまでの震えが嘘のように軽く足が動いた。周りの景色が飛ぶように早く過ぎていく。すでにだいぶ離されていたと思っていたアビスの影が瞬く間に大きくなり、そして、次の瞬間。
「!!」
 目の前が暗くなった。アビスの振り上げた尻尾の真下、そこにビリィはいた。黒く斑な紋様がビリィを威圧する。思わずビリィは剣の柄を握りしめた。
 先程の場所からアビスのいる場所まで、軽く3キロはあるはずだった。普通に考えて、常人がこんなに短時間で辿り着ける距離ではない。ビリィは今の自分の状況が掴めず一瞬ポカンと口を開けて目の前の紋様を見上げた。そして自分の置かれている状況を理解してなお信じられず、握りしめた剣にぎゅっと力を込める。
 しかしあれこれと考えている暇はなかった。振り上げられた尻尾は大きく振りかぶられ、まさに家々を襲わんとしている。
 ビリィはアビスに向かい、とっさに大きく切りかかった。
 
 ザンッッ!!!!
 
 信じられない音がした。剣は空を切ったように軽く振り上げられ、しかし目に入ったのは、大きく跳ね上がったアビスの尻尾だった。
 あまりにもきれいな断面は血を出すことすら忘れているようで、ぱっくりとした赤い断面の真ん中に丸く骨が収まっているのがはっきりと見えた。 その光景に、ビリィは時が止まったような心地さえした。
「グァアアアォオウウウウォオオオオオオ」
 しかしその一瞬の静寂はすぐに破られる。空気を切り裂くような声で、アビスが唸りを上げた。
 ズシーーン!!!と大きな音を立てて斬られた尻尾が地面に叩きつけられる。そうして初めて、ビリィはアビスとハッキリ目があったことがわかった。ギラギラと燃えるように赤い瞳は、憎しみを持ってビリィに向けられていた。
 ビリィはアビスの行動が示す事実を肌で感じて、高揚したように肩に力を入れた。ギラリと握った剣が輝く。
 
「ビリィ、角よ!」
 ハァハァと息を切らせながらビリィを追いかけてきたらしいドリィが、遥か後方から叫ぶ。
「アビスの心臓は首の下に生えている角の奥にあるの!角の下を貫いて!」
 息を上げながらドリィが叫ぶ。ビリィはアビスの体を見上げた。首の下にはその巨体に似合わない小さな角が生えていて、ビリィが持っている剣の刃に似た色をしていた。
 アビスがグルリと首を捻る。ドリィの声に反応するように、切れた尻尾の根をゆるゆると振った。そうして、ドリィの方へ体を向けようとする。
「!!」
 それは焦りであっただろうか。アビスの顔に俄かに表れた表情に、ビリィは何故か異様な親近感を覚えた。
 まるでアビスがドリィの言葉を理解し、その反応をしたかのようだった。
 ゆっくりと小さな角がアビスの背中によって視界から隠されようとして慌てて、ビリィは力強く地を蹴る。
「うおぉおおおおおおおおお!!!!!」
 3kmの距離を一瞬で駆け抜けた時と同じように、ビリィの体は高く空中に投げ出されていた。
 体を捻ると、目の前にアビスの角があった。それは仄かに白く煌めいていて、ビリィは一瞬目を奪われる。
 
「貫いて!!」
 
 ドリィがまた叫ぶ声が聞こえた。
 ビリィは空中でぐっと剣を握ると、高く掲げた剣をアビスの角目掛けて振り下ろした。
 
 
 そこから先はパノラマのようだった。
 一瞬一瞬を切り取るように、アビスの動きが止まり、ゆっくりと崩れ落ちていく。
 アビスの肉体に突き立てた剣を抜きながら、ビリィはドリィの方へ振り向いた。ドリィはまだ遥か後方にいたが、遠目に見える彼女の表情は、やはり少し泣きそうな顔をしているな、とビリィは思った。アビスの体が反り返り、頭が下がっていくのと同時に、ビリィの視界にも地面がゆっくりと近づいてくる。
 ヒラヒラとマントをはためかせて、ビリィは地に降りた。
 まるでその瞬間、世界に音が蘇ったかのようにアビスの巨体が地面に倒れて大きな音を立てた。ビリビリと地面が揺れる。
 ビリィはアビスを見、そして握りしめた剣を見た。先ほどまでの輝きはなく、味気ない白色をした刃先がビリィの顔を映した。それでも、その刀身はそこにたしかにあるようだった。
 ビリィはそれを恐る恐る撫でる。冷たかった。アビスの体にあんなに深々と突き立てたのに、刃には血の一滴も付いていない。アビスの体を振り返ってもそこに血だまりはなかった。本当にアビスを倒したのだろうか。近づこうとすると、背中から声がした。
「ビリィ!」
 ドリィがこちらに駆けてくる。ハァハァと息を切らせて、やがてゆっくりとした歩みに変わり、ビリィの前で立ち止まった。
「……やったのね」
「…………たぶん」
 ドリィは少しずつアビスに近づいた。
「ドリィ、まだ生きてるかもしれない」
 ビリィが慌てて制す。しかし、
「大丈夫。もう、死んでるわ」
 なんの根拠があるのか。ドリィはビリィに背を向けたままはっきりとそう言った。そしてさらに歩みを進める。
恐ろしい爪を持つ前足を抜け、アビスの顔の近くに立つ。首のすぐ下に生えた、先ほどビリィが貫いた角をそっと撫でた。
 
「!!」
 
 ドリィがアビスに触れるか触れないか、その瞬間。アビスの体は少しずつ砂に変わっていった。前足、背中、尻尾……全てがサラサラと風に流されて地面に同化していく。
 ドリィはその風景にも驚くことはなく、ただその砂の消えていく先を少しだけ目で追った。
 やがて、そこにはドリィが触れた角だけが残った。ドリィはそれをそっと持ち上げる。
「ドリィ、君は」
 ビリィは何かを問いかけようとする。しかし言葉にはならず、そもそも何を問いかけたいのか、それすらも心の中で霧散した。
 アビスの角はその巨体に不似合いな小ささだと思ったが、今ドリィが抱えると、今度は大きすぎてアンバランスに見えた。持ち上げきれずに角の下がずっている。
 よいしょ、とかけ声をしてドリィは角を抱え直した。
「それ、どうするんだい」
「……ここ」
 ドリィは足で地面を指した。
「掘ってくれない?立てたいの」
 
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